温泉やスーパー銭湯を利用するとき、脱衣所のロッカーに財布やスマートフォンを入れて、鍵を腕につけてお風呂に入る方は多いと思います。
「ちゃんと鍵をかけたから大丈夫」
ほとんどの方がそう思うでしょう。
ところが2026年、山梨県の温泉施設で、ロッカーの「合鍵」を使って利用客の現金を盗んだとされる事件が報道されました。
今回は鍵屋の目線から、この事件の少し変わった手口と、温泉施設のロッカーを利用するときにできる防犯対策について考えてみたいと思います。
温泉施設のロッカーの鍵を260個以上複製
報道によると、男2人は山梨県富士川町の温泉施設で、脱衣所のロッカーから現金2万円を盗んだ疑いで逮捕されました。
警察は複製された鍵を260個以上押収しており、少なくとも山梨・神奈川・静岡・埼玉の13施設が被害に遭ったとみて捜査しています。
さらに、容疑者らは「2~3年間で300~400件盗んだ」などと話していると報じられています。
今回特に驚くのが、その手口です。
利用客を装って温泉施設へ入り、ロッカーの鍵を一度施設の外へ持ち出し、その鍵の形を型取りして複製。
その後、元の鍵は何事もなかったようにロッカーへ戻し、作った合鍵を使って別の日にロッカーを開けていたとされています。
つまり利用者からすると、
「鍵は自分の腕についている」
「ロッカーもちゃんと施錠されている」
それなのに、第三者が同じ鍵を持っていたということになります。
これでは気づくのは難しいでしょう。
なぜ温泉施設が狙われたのか?
報道では、温泉施設を狙った理由について「脱衣場には防犯カメラがないから」という趣旨の供述もあったとされています。
確かに温泉や銭湯の脱衣所は、一般的な店舗とは事情が違います。
当然ながら利用者が服を脱ぐ場所ですから、コンビニやスーパーのように何台も防犯カメラを設置するのは難しい場所です。
また今回の事件では、一度作った合鍵を繰り返し使用していたとされています。
しかも財布ごと盗むのではなく、現金の一部だけを抜き取ることで、被害者がすぐに盗難に気付かないようにしていたとも報じられています。
実際に300件以上の犯行を繰り返していたとされる一方、被害届はごく少数だったとの報道もあります。
財布がなくなっていればすぐに事件だと思いますが、
「1万円少ない気がする……」
「どこかで使ったかな?」
程度なら、そのまま気付かない方もいるでしょう。
非常に発覚しにくい手口だったと考えられます。
ロッカーの鍵なら簡単に合鍵を作れる?
ここは誤解しないでいただきたいところです。
今回このような事件が起きたからといって、すべてのロッカーキーが誰でも簡単に複製できるというわけではありません。
鍵にはさまざまな種類があり、形状や構造、防犯性能もそれぞれ違います。
今回使われた鍵についても、報道だけではメーカーや錠前の詳しい構造までは分かりません。
また、報道されている複製方法を見る限り、犯人らは事前に道具を準備し、鍵の複製についてある程度の知識を持って犯行を繰り返していたと考えられます。
一般的な住宅玄関に使われているディンプルキーや登録制の鍵などと、温泉施設のロッカーキーをすべて同じように考えるべきではありません。
ただし今回の事件から分かるのは、「自分が持っている鍵が目の前にあるから、絶対に安全とは限らない」ということです。
利用者側でできる対策は意外と少ない
では、温泉に入るとき私たちはどうすればよいのでしょうか。
正直なところ、今回のように施設のロッカー自体の合鍵を第三者がすでに持っていた場合、利用者側だけで完全に防ぐのはかなり難しいと思います。
現実的にできる対策としては、
・必要以上の現金を持って行かない
・貴重品専用ロッカーがあれば利用する
・フロントで貴重品を預かってもらえる施設なら利用する
・鍵式以外のロッカーを選択できる場合は検討する
・入浴後に財布の中身を確認する
といったところでしょう。
特に最近はキャッシュレス決済が使える場所も増えているため、温泉へ行くだけなら数万円もの現金を財布に入れておく必要性は以前より少なくなっています。
一方で、「財布を車に置いておけば安全」というわけでもありません。
今度は車上荒らしの危険がありますので、車内の目立つ場所に財布などの貴重品を放置することはおすすめできません。
暗証番号式ロッカーなら安心?
鍵を複製されるリスクを考えれば、暗証番号式や電子式のロッカーへの変更も施設側の対策のひとつです。
物理的な鍵を利用者が持ち出さない仕組みであれば、今回とまったく同じ手口は使いにくくなります。
ただ、暗証番号式ならすべて解決するかというと、そう簡単でもありません。
番号を忘れてしまう利用者は必ず出てきます。
特に幅広い年代の方が利用する温泉施設の場合、
「暗証番号を忘れてロッカーが開けられない」
という問い合わせが増えれば、今度は施設側の対応負担が大きくなるでしょう。
暗証番号を覗き見される可能性など、別の問題もあります。
鍵式・暗証番号式・電子式、それぞれにメリットとデメリットがあり、利用者層や施設の運用方法に合わせて考える必要があります。
人の良心で成り立っている場所だからこそ残念な事件
温泉や銭湯という場所は、ある意味では利用者同士の良心や信頼によって成り立っている部分があります。
ロッカーに鍵をかけ、鍵を腕につけてお風呂に入る。
普通であれば、
「この鍵は以前誰かに持ち出されていて、合鍵を作られているかもしれない」
などとは考えません。
脱衣所という場所の性質上、防犯設備をどこまでも強化することにも限界があります。
そうした場所を狙って計画的に犯行を繰り返していたのだとすれば、鍵に携わる仕事をしている立場としても非常に残念に感じます。
今回の事件をきっかけに、温泉施設などのロッカーについても、
「鍵をかけているから安心」から、もう一歩進んだ防犯対策
を考える必要が出てくるのかもしれません。
利用する側としては過度に怖がる必要はありませんが、多額の現金や高価な貴重品を必要以上に持ち込まないなど、できる範囲で対策しておくことをおすすめします。
よくある質問
Q1. 温泉のロッカーの鍵は簡単に合鍵を作れるのですか?
すべてのロッカーキーが簡単に複製できるわけではありません。鍵の種類や構造によって複製の難易度は大きく異なります。今回の事件では事前に道具を用意して鍵を複製していたと報じられており、一般の方がその場ですぐ作れるという意味ではありません。
Q2. 温泉で盗難に遭わないためにはどうすればいいですか?
完全に防ぐ方法はありませんが、多額の現金を持ち込まないこと、フロント預かりを利用することなどが現実的です。
入浴後に所持品を確認し、不審な点があれば早めに施設へ相談しましょう。
Q3. 暗証番号式ロッカーなら鍵式より安全ですか?
物理的な鍵を複製される今回の手口には有効ですが、暗証番号の覗き見や番号忘れなど別の問題があります。
特に幅広い年代が利用する施設では、使いやすさと防犯性のバランスを考えた設備選びが重要です。





